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【姉が書いた小説】龍円 ~嵐のサーキット荒らし~

         F☆NFより                      ─
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「龍円 ~嵐のサーキット荒らし~」




八月のとあるサーキット、アメリカから来たレーサーのA氏たちスタッフは、レーサー人生始まって以来の最大のピンチを迎えていた。
レース開始五分前になっても、相手チームが現れないのだ。
ただの練習試合だったため、観客は入っていない。
だが、A氏は、連絡も無しに試合をすっぽかした相手チームに対して、怒り狂っていた。
自分のプライドがズタズタになったような気がしたのだろう。この試合の為に自分はアメリカからスタッフを引き連れてやって来たのに、なのに奴は自分との試合をすっぽかしたのだ!
(ちなみに自慢ではないがA氏は、国際的なレースで何連覇もしている一流のレーサーである)
A氏のイライラはスタッフにも伝染した。
とにかくすぐに相手を見つけなければ!帰るに帰れない!
おそらく彼らの心の中はこんな感じであろう。
と、そのとき・・・
「ボコッ」
A氏が車のボンネットを・・・・殴っていた。

 

 
「Aさん!やめてください!」
「気持ちは分かります!」
「そんな事したら傷が付きますよ~、あーもうこんなにへこんじゃって・・・・・」
「ケニーガドシテモニホンデヤレイウカラキタ!ナノニケニーコナイネ!」
「代わりの人連れてきますから・・・」
「スグツレテコイッ、五分デコイッ、ジャナイトコレブッコワス!ハカイシテヤル!」
「五分ですか?そんな無茶な・・・」
「とにかく、誰か一人調達してこい!この際誰でもいい、免許持ってればいい、車壊されたらいくらすると思ってるんだ」
スタッフの声は弱々しかった、目に涙を浮かべていた、もう少ししたら号泣するであろう。
「ハヤクシナイトクルマノイノチナイ!コイツヒトヂチネ!」
「ヒィ~、先輩、Aさん車人質にとりましたぁ~」
「早く行ってこいっ、Aさんは俺がくいとめるから」
「ウヒャ~イ」
気の抜けた声を出し人探しに出た後輩スタッフ。足が内股になっている事を彼は知らない。

場面は変わって、こちらはサーキット場からちょっとばかし離れた、中の下くらいのアパート。(家賃は五万)そこにはこれから、A氏の犠牲者になるであろう若者が住んでいた。一人暮らしの男にしては、部屋はきれいである。新聞紙もたたんであるし、ゴミも分別してある。更にエロ本もわからない所に隠してあった。(広辞苑のケースの仲に十冊ばかしキチキチに詰め込んでいるのだ)その彼が今ちょうど目覚めたところなのだ。
その日、天気がよかったので青年は自転車に乗り、町を徘徊していた。彼はフリーターで今、フライドチキン屋にいる。今日は休日である。休みと言っても、やることは何も無いし、金は無いし、彼女もいない、何も無い無いづくしの青春なのでサーキット場に行く事にしたらしい。彼の住んでいるアパートからサーキット場まで、自転車で十五分である。
レースの無い日は無料解放されているので、何も無い日は時々いくのだ。
青年がサーキット場に着くと、入り口の方で変な外人が、何か騒いでいた。
「君、免許もってる?え、無い?ちょっと君、免許持ってる?ある?ちょっと来てくれないかなぁ、すぐ終わるからさあ」
と、変な外人は次から次へと、声をかけていった。
『新手のナンパ野郎だったらやだな』青年は思った。なぜなら外人は男だけに声をかけていたのだった。『関わるのよそう、男色の気があったらヤバイしな、とにかく逃げよう。目が合わないように下向いて歩こう』青年は自転車に乗りさっさと立ち去ろうとした。
が、その時、
「ねえ君」
外人なのにやたらネィティブな日本語を話すのだ。ついに声をかけられてしまったのだ。周りを見ると既に誰もいなかった。青年が色々考えを巡らせている間に、自分だけとりのこされてしまったのだ。
「君免許あるかなあ」
恐る恐る振り向いてみた。『ウッ!』その時の外人の顔は、目に涙を浮かべていて、今にも泣きだしそうな顔であった。そして内股。 
「免許あったらさあ、ちょっとだけでいいんだよう、変なようにしないからさあ」
そんなこと言われて『はいあります』と即答する人間はいるだろうか。たぶんいないかもしれないが、いるなら筆者は是非会ってみたいのだ。
青年は免許を持っていた。しかし、それを言ってしまったら、自分は何かすごい過ちをおかしてしまいそうでとても恐ろしかったのだ。
「えーと・・・免許は」
有りません。と、言えたらいいな、と彼は思っていた。彼は根本的に嘘がつけない人間である。そのおかげで、彼はとんでもない問題を抱えた事が多数ある。
『断りたい、断りたいなあ。でもこの人困ってるよ、でも気安くOKしたら後で大変なことになりそうだし、内股だからオカマっぽくてやだな』彼は思った。
「無かったらさあ、ある人知らないかなあ、誰かつれてかないと僕大変な事になるんだよう・・・」
ついに号泣してしまった。もう手が付けられない、言っちゃおうかな、いや、やめちゃえよ、やめてこのままどっかいっちゃえ。
「あの、僕免許は」
言うなよ、言ったらしまいだぜ。それよりこのまま俺とどっかパラダイスへ消えちまおうぜ。心の中で彼は迷っていた。
「・・・あります」
「え、ある?本当?」
「はい、本当です。十八の冬に思い出作りの為に、講習受けたり問題解いたりしました」
お前昔からそうやって貧乏クジ引いてきただろうが、もう知らんぜ。もうこいつヤケになってるじゃんか。何言ってんだかわかんねーや。
「もう助かったよ、時間が過ぎても相手が現れなくてさあ、Aさんもうカンカンだよ」
青年は外人に連れられてサーキット場に向かっていた。
「Aさんってだれですか?」
「あれ、知らないの?世界的レーサーのAだよ君F1とか見ない?」
「はい、全く。それでAというのは本名なんですか」
「違うよ、本当の名前はアンサン・キエナーっていう名前なんだ。僕達はアメリカ人だと思ってるけどね、何か国籍不明なんだ。親がマフィアの抗争で殺されたとか、過去にケネディを暗殺しただとか、電気屋で冷蔵庫を買ったらトラックも借りずに素手で持って帰ったとか。なんかダーティーな噂が耐えない人なんだな、Aさんてさ」
そんな恐ろしい人となんで平気で仕事できるんだろうか。青年は思ったがそれを聞いてしまったらとんでもない事がおこるような気がして、聞く事ができなかった。
恐るべしスタローン似のA氏。スポーツニュースで得たまめ知識によると、A氏は一流のF1レーサーで、世界の大会で何連勝もしている伝説のレーサーである。
今、A氏はバカンス中らしいとニユースで聞いたが、なんで日本の片田舎にいるんだろうか。
「それで僕の名前はジョニーっていうんだけど、AさんはJって呼ぶんだよ」
「え、なぜJなんですか?」
「Aさんは人の名前を覚えようとしないんだ、だからみんな名前は単語なんだよ、僕はJって名前なんだ」
「そうなんですか、それにしても日本後お上手ですね」
「やだなあ、国際化の世の中だよ、二カ国語くらいしゃべれないとね」
「はあ」
「というのはちょっとしたジョークでさ、日本にはよく来るんだよ。それに僕はイギリス生まれの気仙沼育ちなのさ、だから英語より日本語の方が楽なのさ。というか、日本語しか喋れないんだよ、僕って奴はウヒェヒェ・・」
なんかおかしな笑い方をする外人だなぁ。と、青年と筆者は思った。そんなことを考えていると、文章に句読点のない怒鳴り声が、世界の終わりあたりから聞こえてきたのだった。
「オソイ!ケニーノカワリイツクル!」
A氏は右手にドライバー、左手にトレーニング用のバーベルを持って、仁王立ちになっていた。
「おい、ジョニーはまだか!このままだと本当に破壊されるぞ!」
「そんなこと言われましてもねえ、電波届かなくて連絡つかないんですよ。たぶん電源切っちゃってるんですよ」
「おい、お前は何ダンボールやら鉄板やらばらまいてやがる」
バリケードです」
「ふざけんな!そんなことやってる暇あるならとっととジョニーを呼んでこい!」
「そんなヒステリーおこさないで下さいよ、Aさんみたいになっちゃいますよ。あっ、来ました、来ましたよー、おーい」
サーキット場の中に入り、ハデハデしい車の所に向かっていると、どこかから切羽詰まったような声が聞こえてきた。
「あ、先輩だ。なんか大変な事になってるぞ、こりゃAさん爆発寸前だぜ。あ、Aさんてばバーベルなんか持っちゃって、マジで破壊する気なのか!?おーいちょっとまってー」
大変な所に来たと青年は思った。だいたい目の前に男はどうだろうか、車を人質にとっている。そして、ドライバーとバーベルを持って何かヒステリックに叫んでいる。あれがAという人物だろうか。テレビで見るイメージとはえらくちがうけど・・・・なんか、八つ墓村に出てくる亡霊みたいだ。
「うわ~っ、Aさ~ん。ちゃんと連れてきましたから~、そんなこと止めて下さいよ~」
「アノボーイガアイテナノカ?」
「そうです、そうですから、その振り上げたドライバー降ろしてくださ~い」
『僕は十九なんだけどな、ボーイなんて言わないでほしいんだけどな』青年は思った。
おい、だから言ったろう、だから断っておけばよかったんだ。どうすんだよ、あ、近付いてくるぜ、逃げろ、逃げるんだ、逃げなきゃ死ぬぜ、死んじまうぜ。
と、筆者は無理を承知で言ったのだが、正直すぎて嘘が付けない、少し小心者の青年である。そんな事出来るなら、ここにはもとからいないのである。 
「アンタノオナマエナンテーノ」
「エトト、じゃなくて、僕は山崎・・・」
「ナニ?Yダッテ?」
「ケンイチです。ケンは健康の健、イチは一つの・・・」
「ナニ!ケニーダッテ?チクショウココデアッタラヒャクネントンデイチネ!ブッツブシテヤリマスヨ!」
と、いうかんじでスタローン似のA氏は言った。
「ちょっと、Fさんてばなんなんですかケニーとは」
「僕はFじゃなくてJだよ。まあ、どうでもいいや。ケニーってのはね、今日試合するはずだった奴だよ。日本人でさ、ケンジっていうんだけどさ、あいつってばホント気まぐれでさ、今日も連絡も無しに来なくてさあ、おかげでこんな有り様さ」
「じゃあ僕は一体どうすれば・・・」
「実は、Aさんとレースしてほしいんだ。いや、無理なのはわかってるけどさあ、Aさんもう走り終わるまで落ち着かないんだよ、勝ってくれとは言わないからさ、一緒に走ってやってくれよ~」
「わ、わかりましたから、Tシャツ引っ張らないで・・・・、やります、やりますから」
「ヤルヤラナイドッチダ!」
スタローン似のA氏はもうキレまくりの状態であった。彼を落ち着かせるには、レースするしかないのだ。
「わかりました。Aさん、走りましょう、勝負しましょう」
「ナニ、ショウブダッテ、ヒサシブリニキイタネ、モエタゼモエテキタゼ、ウケケケケケケケ」
今まで一方的にまくしたてていたA氏が初めて笑った、呼吸した、しかも句読点があった。
「ダッタラハヤクシタクキガエシテキナ!」
場所は変わってこちらはロッカールーム。健一はJに連れられて、着替えをしている最中であった。
「しかし、テレビとは大違いですね。Aさんて」
着替えながら健一は言った。
「いつもはあんな感じじゃないけどね。今日はケニーとの対決だったからね」
「そんなに特別な人なんですか。でも何でケニーと呼んでるんでしょうか」 「言ったろ、Aさんは人の名前を覚えないってね。」
ケンジくらい覚えられないのかな、と言おうとしたが、口に出してしまったらチクられるような気がして言わなかった。
「ケニーはレーサーじゃないんだけど、世界で唯一Aさんに勝った男なんだ。あんなボロ負けしたAさん初めてみたな」
「ケニーってどんな人なんですか」
「うん、日本人で、住所不定の五十八歳さ」
『とりあえず警察に届けた方が早く見つかるんじゃないですか』と、言ってやろうかと思ったが、言ったら最後で命はないだろうな、と思ったので、結局何も云わなかった。
『バタンッ』
Jさんと和やかに会話をしていたら、いきなりA氏が入ってきた。ドアは静に開けろよ、失礼な奴だな。と、云ってやろうと思ったが、言ったら最後でグチャグチャにされるだろうな、と思ったので言わなかった。それくらい目の前のA氏はすごい剣幕だったのだ。
「ナニシテルキガエオワッタラトットトデテコイ!」
またまた一方的にまくしたてて出て行った。A氏にはイタリアかメキシコあたりの血が流れているんじゃないかと思う。
とにかくそんなこんなでレースが行われる事になった。この健一という人間は、やる前は色々と抵抗するが、やってしまったら流れにまかせるタイプである。
「いいかい、とにかくアクセルふんでればいいから、スピード出すのが怖いなら50キロくらいで走ってればいいからね」
と、Jさんは言った。
『まあ、スピード出して走ってればいいんだな』元来、楽観的な健一であるから、そこんとこは適当に考えていた。
「あの信号みたいなのが青になったら走り出せばいいんですね」
「そうだよ」
言うだけ言うと、Jは去って行った。
青になったので健一は何も考えずに飛び出した。元々あまり深く考え込む人間ではないし、普段はスピード狂ということで、スピードはすぐに100を越えた。しかし、いくら普段スピード狂といっても、健一は素人であるから、五周したら終わり。というルールにした。
「あ、もう五周だ。どうやって止めようかな。あそこのブロックにぶつけちゃおうかな」
(レースの描写があんまりないのはF1がなんだかよくわかってないからである。野球ならわかるんだけどさ)
こちらスタッフ達。
「あの健一って人すごいじゃないですか、Aさん抜いちゃいましたよ」
「あの世界のAさんに勝っちゃったよ」
「だけど、あの、なんか全然スピード落ちないんですが・・・」 「も、もしかして、ぶつける気じゃ・・・」
「ま、ま、まずい。止めなきゃ」
「で、でもどうやって?・・」
「どっかに画用紙あっただろう、お前のお絵かき張でもいいや」
「ここにありますが、何て書きましょうか」
「ちょっと貸せ!」

      “健一君へ”
 このままもう一周してブレーキふんで止めてくれないか?
その車を壊すわけにはいかんのだ!たのむからH@KFDJ

(最後の方はパニックで、書いた本人もなんだかわかってないらしい)
「こんなわかりにくい文章でわかってくれますかね」
「わかってくれるさ、ハートがあればな!」
その熱いハートが通じたのかどうか知らんが、健一はわかってくれたようだ。
『もう一周するんか、面倒だな。どうやって止めるか教えてくれりゃいいのにさ。高速道路の要領でやりゃいいんだな。じゃ、そうしよ』
「わかってくれたようです!」
「おーし、スピード落ちてきてるぞ」
「アイツオレヲマカシヤガッタ・・・」
「あ、Aさんいたんだ」
「そういや負けたんですよね」
「ッカー!アンタナゼオレノソンザイワスレルノカ!」
ブチ切れたA氏は無敵である。A氏は、目の前のスタッフに飛びかかろうとしたが、周りのスタッフに止められて、羽交い締めにされてしまった。
「バカ、なんて事いうんだお前は。もう手がつけられないぞ!」
「すいませ~ん。ついつい興奮して本当の事を言ってしまいました~」
「本当の事言うのにも限度があるぞ」
「そうだそうだ、本当の事言うのもいいかげんにしろ」
「本当の事も休み休み言え」
「ウッケーッ! @-¥543:◎☆§」
ついにA氏はトランスしてしまった。もう我々の手が届かない所へ行ってしまったのだ。可哀想なA氏・・・・・・。
「オマエラゼッタイコンヤオカズノトンジルオマエラノブンマデクッテヤルカラナ!」
「まあまあ、たかだか一敗したくらいで・・」
「アンナプータローノアンチャンニマケルナンテシンデモシニキレナイネ!」
「死ぬだなんて縁起でもない、あ、健一君。気分はどうだい?」
「はい、あ・・・あの」
「!MFURI789”“↓↑ 〒~・→←!」
「Aさん今こんなだから、近付かない方がいいよ。あっち行って話そう。あ、先輩、後お願いします。でも君凄いね、Aさんに勝っちゃったよ。」
「なんか楽勝でした」
「オマエハリタオシテヤルサカイソコウゴクナ!」
「どうしたんですか、あの人」
「今荒れてるんだ」
「☆☆☆§§§§!」
「何かの暗号ですか?」
「違うよ、興奮して何言ってるのか自分でもわかってないんだよ」
「0QDFQBD@(¥W@R」
これ以上ここにいたら、八つ裂きにされるかもしれん。という考えが浮かんだ。筆者もそう思うから、暗くなる前にとっとと帰んな。
そのくらいA氏はクレイジーで、パニッシャーで、トランスなので、おそらくあと三十秒くらいでそれは現実になるだろうね。ケケケケケ・・・。
「僕もう帰ります」
うん、人間ミックス状態になるからね。 「うん、悪かったねせっかくの休日にさ」
「Aさん全然落ち着かなかったけど、大丈夫なんですか?」
「いいんだ。ポリンキーとドンタコスやっとけば落ち着くから」
じゃあレースはなんだったのか・・・。
「じゃ、僕帰ります」
もう二度と関わるもんか。と心の中で思った。
健一は怪しげな集団を残して、サーキット場を去った。
すると・・・「おーい、健一くーん、待ってー」
Jが物凄い剣幕ですっとんできた。紙でも鉄でも食ってしまいそうな勢いだった。逃げようと思ったが、Jの足の方が速かった。
「これ、僕の連絡先。君、レーサーの素質があると思うよ。もしよかったら、トレーニングしてみない?僕達と一緒にレインボーロードを走ってみないか!?」
一瞬断ろうと思ったが、Jの情熱が凄すぎてとうとう受け取ってしまいました。
Jからもらった名刺には、なぜか日本の電話番号が書いてあった。
「しばらく日本にいるから、たぶん通じると思うよ」
無責任な野郎だな。普通自宅の住所とかだろうが。と、思ったが、もうあんまり関わりたくもなかったので、たいして何も言わなかった。
「うん、また連絡するよ。じゃ。」
一言どうでもいいことを言って、その場を静かに立ち去った。カール・ルイスのようなフォームで。
その後、健一はなんとか無事に家までたどりついたのだった。
「しかし、勝ったのに負けた気分だぜ、なんだろうこの胸にある敗北感は・・・・」

三日後

健一青年は、朝からフライドチキンを揚げていた。なんか油臭くて時々リバースしそうになったが、それを我慢したら楽勝だったのでうまいぐあいにやっていた。
 「サクッとね~、サクッとね~、情熱的にサクットネ~
 ウシャウジャチャカチャカ滋養熱系でバンバンボンボン・・・・」

(これは彼の自作の曲で曲名は情熱系ニワトリダンスである)
 「ミディアム・ウェルダン・レアってばさ~
  ウチのチキンは薬品たっぷり~、君は瞼を閉じて~
  一口食べたら~、覚悟しな~、僕は病院送り~
   ウソ世界なのさ~、ダンダン・・メ」

「山崎君!」
店長のウラオモテハゲが怒鳴った。
「そんな歌、店で歌ってはイカンッ」
「じゃあ外で歌います」
「外で歌ってもイカンッ、君はなんでそう店の売上を落とすような事をするんだ!客席に筒抜けだぞ」
「これは真実を告げるメッセージソングです。真実を知らないヒヨコたちに、ウチのチキンは高濃度の農薬を使っているんでしょ」
「そんなヤバイ物使ったら、とっくに俺は捕まってるんだよ!どうすんだ客が一人もいなくなったじゃないか!」
「じゃあ店閉めましょうか」
「それじゃ意味ないだろう、もういいや、どうせ親父は宗教法人レッドチキンの教祖だから金はあるんだゲヘヘヘヘ・・」
 店長は変だし、調理人は薄気味悪い奴だが、この店は近所の人達に人気があるのだ。一瞬居なくなったとしても、またやってくるのだ。懲りない連中なのだ。
「チキンが安いのは怪しい~     
         がんばれパーホーベン~・・・」

 「もう勝手にやってくれよ・・・・、ああそれから、君に会いたいって人がきてるよ」
健一青年がチラッと客席を盗み見ると、またあの怪しげな団体がいた。店のすみっこで大量のチキンを食っていた。
「店長、やっぱり閉めましょう。今日はなんか仏滅です」
「それはないだろう、レッドチキン教団の経典である百戦錬磨では、今日はギャンブルするのにちょうどいい日なんだぞ」
「じゃあ僕はこれで帰ります」
「なんだ君は、あと五時間もあるじゃないか。悪いこと言わないからもうちょっといなさい」
「明日からもう来ません」
「一体どうしたというんだ」
「荷造りしないと、今までありがとうございました。ウスラハゲさん」
「俺はウラオモテハゲだ!」
 健一は団体に気づかれないように、隠れながら店長と会話した。着替えて事務所に入って来たとき、ちょうど客が入って来た。
「チキンアトゴホンツイカー!」
「ほら、お客さんもああ言ってるんだから、もうちょっと揚げてってよ」
「帰してくれないなら、僕は死にます」
「何言ってるんだ。冗談のつもりらしいが、本気にしか聞こえないぞ」
 健一は、店長の話も聞かずスタコラと外へ出て行った。
 しかし、店を出る瞬間を団体にみられたのだった。
A氏は、実力のある人間は誰でも称賛する人なので、健一を自分の手で一流のレーサーに育てたいと心の隅で思っていたのだ。だから、A氏は健一のバイト先を調べてやってきたのだった。そして、健一のチキンを揚げる腕と歌にチョー感動して、絶対に一流レーサーに育てようと決心したのであった。
 その夜、健一の部屋にあの団体が押しかけ、無理矢理契約を結ばせた。そして、その日のうちに健一は日本から消えた。
 一年後。健一は脅威のスピードで、実力をつけていった。そして、A氏率いる『チーム特攻』のエースになった。一応シンデレラボーイになって、幸せになったので、よかったと筆者は思った。



  《注》・レッドチキン教団 
世界にチキンとギャンブルを広めるべく設立された教団。集会などは一切行ってないので、危険性はない。教祖は麻倉鶏助。
 ・チーム特攻 
トランス外人A氏率いるF1チーム。連戦連勝のメガトンチーム
 ・フィクションとノンフィクションが同居する女 
この作品の筆者であり作者。またの名を親切と不親切が同居する女。ホームページをもっているが、そろそろやめようと思っている。