【NewFieldさんから】ローラ・ニューフィールド
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ローラ・ニューフィールド
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by NewField
ふと目覚めると、私の目線の先には私が横たわっていた。
我ながらかわいらしい寝顔ね。ああ、私ってどうしてこんなにかわいらしいのかしら!もう究極の美少女って感じね。でも、どうしてこの前の美少女コンテストで私が選ばれなかったのかしら。失礼しちゃうわ!あの審査員ども目が腐ってんじゃないのかしら!本当にもう!
ってそんなこと言ってる場合じゃないじゃない!どうして私浮いてんの?もしかして私、また精神体になっちゃったの!?ちょっとどうしようかしら?
私は精神体を体に合わせてみた。しかし、しっくりとかみ合わない。少しずつ青ざめてきた私は急いでドクターのところへと向かった。
「お、ローラ、何急いでんだ?」
走っている私にアレフが声をかけてきた。
アレフというのは四六時中女の子をナンパしている男だ。めちゃくちゃに軽く、見る度に違う女の子を口説いている。それでも何故か人気はある。だからたまに多くの女の子に追いかけられているのを目撃することもある。それでも友情には厚いらしく、お兄ちゃんもアレフの大親友だ。
あ、お兄ちゃんって言うのはアレフなんかと違ってすごく素敵な人なんだよ。自警団第3部隊の隊長をしているんだけどね、私がついていてあげないといけないのよ。ラブラブなんだから。えへへ。
って照れてる場合じゃなかった。
「ちょっとドクターのところに行くだけー!!」
私はそのまま走り抜けながら、一応返事だけはした。
「何でそんなに急ぐんだ?」
アレフがスピードを合わせて、併走しながらきいてくる。
「ドクターのところについてから!」
「なあ、あいつに伝えておいてやろうか?ローラがドクターのところへ急いで向かっていたって。あいつすごく心配するぞ」
「それはやめといて」
何も分からないのに、お兄ちゃんに心配だけをかけるのはよくないと思ったのだ。ああ、なんてけなげな私!
「ドクター!!ドクター!!」
私は叫びながら、医院に駆け込んだ。
「あら、どうしたんですか、ローラちゃん?」
中にはディアーナさんしかいなかった。ディアーナさんというのはドクターの押し掛け弟子なのだが、医者にはあるまじきことで血を見ると気絶したり、おっちょこちょいだったりと、まともに人を治療したことがないのだ。
「ちょっと大変なことがあって、ドクターに相談したいんだけど」
「トーヤ先生ですか?今、往診に出てますけど。あ!何なら私が相談に乗りましょうか?」
ディアーナさんがにっこりと笑って申し出てくる。
私はその迫力にびびって、アレフのほうを向くと、アレフもやばいやばいといった感じで手を横に振っている。顔もかなりひきつっている。
「え、遠慮しておくわ。私はドクターが帰ってくるまで待つことにするわ」
「そうですか・・・」
残念そうにつぶやくディアーナさん。
ちょっと悪いことしちゃったかな?でも、ディアーナさんに相談しても分からないでしょうし。仕方ないわよね。
がばっ!!
そんな擬音が聞こえてきそうな勢いでいきなりディアーナさんが顔を上げた。その目はきらきら輝いている。
「アレフさんのほうは大丈夫なんですか?私が診察しますよ!」
「えっ!?俺?いや、俺は単なるローラの付き添いだから」
「じゃあ、なにも問題ないんですね!」
断られたのににこにこしているディアーナさん。なんか隠してそうね。
「ああ、まあそうだけど」
どこか不審なところをアレフさんも感じているのだろう。歯切れの悪い答えを返す。かといって私の付き添いと行ってしまった以上、すぐに帰るわけには行かないだろう。さて、ディアーナさんは何をたくらんでいるんだろうか?
私は自分の状態のことも忘れて、二人のやりとりを見ていた。
「私が新しく調合した強壮剤があるんですけど、飲んでみてくれませんか?」
「絶対いやだ!」
大声で叫んでアレフさんは拒否する。
「少しだけでいいですから頼みますよ!先生に言ったら断られたんですよ」
「馬鹿!その時点で俺に頼むのは間違ってるだろうが!」
アレフさんとディアーナさんの追いかけっこが始まった。その影響で薬だなが倒れたりしているが、二人とも気づかない。だからといって私が触るのもよくなさそうなので、なにもできず、その状況を見ていると・・・
医院の入り口が開いて、ドクターが入ってきた。
「おまえら、なにをやっているんだ!!」
それから数十分後。
私はディアーナさんとアレフさんが片づけをしている部屋とは別室でドクターに相談をしていた。
「で、ローラ、何があったんだ?」
「あのね、ドクター、私また精神体になっちゃったのよ」
「なるほど、また分離したというわけだな。ふむ。たまにこういうことが起こるんだろう。おそらく1日ぐらいしたら、元に戻ると思うがな。まあそれで戻らなかったらもう1度訪ねてこい」
「分かったわ。ありがとね、ドクター」
「うむ。お大事な」
それから私は自警団事務所に向かった。お兄ちゃんに会うためだ。
特に何も心配がないのなら、お兄ちゃんの様子を見に行こうということだ。
これはいつもの日課なのだ。事務所まで行けば、毎日お兄ちゃんに会えるからね。
医院から直接事務所に向かったため、いつも通る道とは全く違う道を通る。
私は事務所にはいると、きょろきょろと室内を見回した。しかし、そこには私のお目当てのお兄ちゃんはおらず、アルベルトさんが一人で愛用のハルバードのお手入れをしていた。アルベルトさんは私を見かけると、落ち着いた調子で声をかけてきた。
「お、ローラじゃねえか。あいつのことか?なんかさっきパティが駆け込んできて、その後パティとすごい形相をして駆け出していったぞ」
「そうなんだ。どこに行ったか分かる?」
「分からんな。声をかける暇もなかったんでな」
「それで、何でアルベルトさんはここでボーっとしてんの?」
アルベルトさんはぽりぽりと顔をかいて、私の質問に答えた。
「いや、別に今日は特に仕事がないんでほっておいてもいいかと思って」
「そう?」
あまりにも無気力な姿をしているので、私は少しからかってみることにした。少し事務所から顔を出し、外を見ているようなふりをして言う。
「あれ?アリサさんがこっちに向かってきてるよ」
「何!?」
大声を出して外に飛び出るアルベルトさん。
「ど、どこだ?どこだ?」
そして、格好つけながら周囲を見回す。
「う・ふ・ふ。冗談よ、冗談」
私がそう言うと、アルベルトさんはぎろっと私のほうをにらむと
「何ーーーーーー!!」
と叫んで目をつり上げてきたのだが、私はすでに駆け出していた。
「ごめんねーーー!!」
後ろでなにやらアルベルトさんが大声を出しているのは分かるが、追ってくる気配はない。そこで、私はスピードを落とし、お兄ちゃん探しを開始した。
パティと出ていったということを考えて、私はまずパティの店のさくら亭に向かうことにした。
さくら亭にはしかし、パティはおらず、代わりにリサさんがウェイトレスをしていた。
「あれ?リサさん、ここにもいないの、お兄ちゃん?」
「お、ローラか?それよりパティを知らないか?出前に出たまま帰ってこないんだ。私にばかりこんな仕事をさせて」
「出前?どこに行ったか分かる?」
「あれ?ローラは知らないのか?セントウインザー教会に行ったと思ってたんだけど」
あれ?私はそんな話聞いていない。セリーヌさんも何も言っていなかったと思うが。
あ!私今日は誰とも話さずにすぐ教会を出ていったっけ。
じゃあ早速教会に戻ってみますか。
「ありがとう、リサさん」
「ああ、パティに会ったら早く戻ってくるように言っておいてくれ」
「分かったわーー!!」
私は返事をしながらすでに走り出していた。
私は教会に着くやいなやセリーヌさんがいるだろう中庭に向かった。
すると、予想通りそこではセリーヌさんが洗濯物を干していた。
「あら、ローラさん。もう大丈夫なんですか?」
「えっ?大丈夫って何が?」
「ローラさん、いくら私が起こそうとしても起きなかったじゃないですか。もう大丈夫なんですか?」
そうだった!誰にも事情を言ってなかったんだわ!
「それでさっきパティさんと第3部隊の隊長さんが大慌てでローラさんに会いに来られましたよ。特に隊長さんの慌てぶりは大変すごかったですよ」
全然すごそうに聞こえない口調で話すセリーヌさん。
「あの、セリーヌさん!」
「はいー、なんでしょうか?」
「あの、まだ私の体が私の部屋にあるからそのままにしておいてね」
「はいー?どういうことでしょうか?」
自分でもこんな説明では分かってくれないだろうなと思う。が、しかしセリーヌさんは説明なんて気にしない人なのだ。
「後で説明するから、頼んだわよ」
「はいー、分かりました」
私の頭の中では今回の騒動のすべてが見えた。それを説明してあげようかしら。
まずパティさんが何か頼まれものをして、教会に向かった。そこで、私の体を起こそうとしているセリーヌさんと遭遇する。教会の中までパティさんが入ってきた理由はおそらくセリーヌさんの返事がなかったからだろう。こういうところはパティさんらしい。
次に私の異常を察したパティさんは当然お兄ちゃんのところへ向かう。なぜなら私とお兄ちゃんがつきあっていることは周知の事実だからだ。
って、自分で言ってて、ローラ恥ずかしい!!
なんて言っている場合ではなかったね。そして、お兄ちゃんとパティさんはこの教会に再び戻ってきたと。
どう?分かったかしら?
え?言われなくても分かった?今更説明しなくていい?
何よ!わざわざこの超美少女の私が説明してあげたというのに。
「あの、ローラさん、何をぶつぶつ言っているんですか?」
「えっ?ううん、なんでもないの」
さて、問題になるのはお兄ちゃんたちがここを出ていってどうしたかということね。
最初は簡単。おそらくドクターのところに行ったんだわ。
そこでどうするか。
ここからはちょっと半信半疑になるけど、たぶんドクターに説明もせずにここまで引っ張って来るんじゃないかしら。
と言うことは私は自室にいればいいと。
「セリーヌさん、やっぱり私、自分の部屋にいることにするわ」
「そうですか。分かりました」
しばらく自分の部屋で待っていると、
「ドクター!こっちだ!」
私の部屋に向かってどたばたと騒がしい叫び声が足音とともに近づいてくる。
そして、扉が開き、私がずっと会いたいと思っていた顔が現れる。
パティさんとドクターもいっしょだ。
入ってきたと同時にお兄ちゃんとパティさんの顔が驚愕の色に染まっていく。
「ロ、ローラが二人いる!!」
しばらく時間をおいて、二人が落ち着いたところで私とドクターが事情を説明する。
それでパティさんは納得したようだったが、お兄ちゃんはそうではなかった。
「ドクター!たぶん明日には戻るだろうだって!そんないい加減なことでいいのかよ!もし戻らなかったらどうしてくれるんだ!ローラはずっと孤独に耐えてきたんだぞ。誰も知り合いのいない世界に。もっとちゃんとした解決法はないのかよ!取り返しのつかないことにはならないんだろうな!」
お兄ちゃんはドクターにつかみかかろうとした。
お兄ちゃんの言葉はすごく嬉しかったけど、ドクターには何の罪もないからね。
「お兄ちゃん、止めてよ!」
「ローラ・・・」
「私のことをそんなに想ってくれるのは嬉しいけど、ドクターのことを信じようよ。たぶん魔法の副作用だよ」
「俺もあれから文献で調べたから大丈夫だ。それより俺は帰らしてもらうぞ」
お兄ちゃんは少し思い直したような顔をして
「ああ、すまなかったな、ドクター。ちょっとどうかしてたような気がするよ」
「いや、そんな強い思いは誰だって抱いているものだ。気にすることではない。もし、明日元に戻らなかったら俺がどんなことをしてでも元に戻してやるから心配はいらん」
そう言って、冷静な顔を崩さずにドクターは出ていった。
その後、パティもリサのことを話すと出ていった。
私の部屋には私とお兄ちゃんの二人だけが残された。
「本当に大丈夫なんだろうか、ローラ」
いつも私を外見上はちょっとうっとうしそうに見ている顔とはうって代わり、非常に真剣な顔をしている。
「お兄ちゃん、そんなに心配?私がいなくなることが」
「当たり前だろ!」
私を抱きしめようとするお兄ちゃん。私も目を閉じてそれに答えようとする。
ごん!
抱き合う音にしてはどこか変な音がする。
目を開くと、お兄ちゃんは私をすり抜け、床に手を広げて倒れ込んでいた。
「そうだ!私今、精神体だから抱き合えないんだ。お兄ちゃん、馬鹿ねえ。あははははは!」
「おいおい、笑うなよ」
お兄ちゃんが少しすねたような顔をして起きあがってくる。
私はそんなお兄ちゃんの顔を見ていると何故か涙が出てきた。
「私も本当は不安なんだよ。やっとやっと一番素敵な恋を見つけて、これから育てていこうというときなのに」
お兄ちゃんのセリフを聞くまでは完全に安心しきっていた私だが、いきなり不安が心の中で芽生えてきたのだ。
「だから、お兄ちゃん、今日一晩私が消えてしまわないか、ずっと見張っててよ。私のそばにずっといてよ」
心の底からの言葉だった。
お兄ちゃんはにっこりと笑って
「ああ、ずっとそばにいてあげるよ。ずっとだ」
私の目を見てそう言った。
そして顔を近づけ、精神同士のキス。
と、話はここまで。夜もいろいろとお話をしたけど、そんなことを書き連ねても仕方ないからね。
結局次の日私は元に戻って、事件は終わったと。
お兄ちゃんはドクターのところにお礼を言いに行ってったけ。
お兄ちゃんとの恋がまた一つ大きくなったような気がしました。
おしまい。