【イラストレーターのアライさん(いられいさん)から】はたらくフレンズ
「アライさんの危機なのだ〜!」
「どうしたの?アライさん」
「フェネック聞いて欲しいのだ!アライさんはもう終わりなのだ〜!」
「んー、とりあえず落ち着いて?」
「これが落ち着いていられないのだ! 大変なことになってるのだ!!︎」
「大変って何が?」
「アライさんは今月の家賃を払うお金がないのだ〜!」
「あちゃー。それは確かにヤバいね。でもいつも割り勘だよねー。私の借しにしておこうか?」
「ダメなのだ! それはダメなのだ! アライさんにはプライドというものがあるのだ……」
「じゃあどうするのさ〜」
「うむぅ……そうなのだ! こうなったらこの間雑誌で見かけたFXとかいうのをはじめてみるのだ!!」
「えっ!?︎」
ここは、ある不思議な現象で動物たちが人間と同じように言葉が話せる女の子の姿になった、「フレンズ」と人間が共存する世界。その世界でアライさんは会社員として暮らしていた。
FXの方はどうなったかといえば、後日アライさんは有り金全部溶かした人の顔をしていた。
「おわったのだぁ……」
「ドンマイ、また明日から真面目に働こうよアライさ〜ん」
納得がいかないアライさんだったが、諦めるしかなかった。
そんなある日、アライさんは風邪をひいた。熱も出てフラフラだった。
「治るまでわたしがアライさんの分も頑張るよ。これも貸しにしておくからね〜」
「いつもすまないのだ、フェネック……」
アライさんは自分の不甲斐無さを痛感していた。
「もっと、自由に生きたいのだ……」
布団の中で呟くアライさん。アライさんは上場企業の正社員である。義務教育を終えてからというもの、フェネックと社宅のワンルームマンションで暮らしてきた。何かある度に明後日の方向に全力疾走し空回り、それをフェネックにフォローされるというのがお決まりのパターンだった。けれども、他人に迷惑をかける事のやりきれなさについては、人一倍敏感であった。このまま消えてしまいたいという思いが、風邪をひいている間、アライさんの心を支配していた。
風邪が治り仕事にも復帰したアライさんの日常は過ぎて行く。そんなとある休日、アライさんとフェネックは学生時代からの友達である『サーバル』と『かばん』と遊びに出かけた。二人とは社会人になってからは会う機会が減っていたが、たまには息抜きも兼ねて会おうという話になったのだ。
アウトレットモールで買い物を済ませたあと、四人はフードコートで昼食を摂ることにした。
「そういえばかばんさん、弁当屋での仕事はどうなのだ?」
「うん! 毎日楽しいよ!」
「そうなのか〜よかったのだ〜」
「あのー……ボクちょっとトイレに行ってくるね」
「行ってらっしゃい、かばんちゃん!」
かばんちゃんが席を外すと、三人の間に沈黙が流れる。先に口を開いたのはサーバルちゃんだった。
「本当はね、凄く大変なんだ」
「そうなのか? かばんさんから聞く限り、サーバルはいつも楽しそうにしているのだ」
「この間なんかね、すごく失礼なお客さんが来たんだよ。『お客様は神様だろ!』って怒鳴ってきたから、わたし、つい『わたし奴隷じゃないよ!』って叫んじゃったよ」
「そうだったのか……」
「残業もたくさんあるんだ〜」
「アライさんの会社にはそんなもの無いのだ」
アライさんがそう言うと、フェネックはうそぶく。
「わたしはアライさん絡みの案件で残業結構あるけどねー」
「フェネック……ごめんなさいなのだ」
「そのおかげでボチボチ儲かってる所はあるけどねー」
「そうなのか!?」
「アライさんみたいにFXで全財産溶かすような事はしないよ」
「ぐぬぅ……」
「アライさんはお金儲けを舐めすぎだよ」
フェネックの言葉は正論だったのでアライさんは何も言い返せなかった。
「アライさんもさぁ、明後日の方向に全力疾走する行動力を何かに活かせたらいいんだけどねー」
「それは無理なのだ!」
アライさんは自信満々な表情で言う。
「だって、アライさんは馬鹿だから何をやっても無駄なのだ! もう何もかも諦めた方がいいのだ!!」
「それはちょっと言い過ぎだと思うな、アライさん」
「そうだね」
「あっ、かばんちゃん! お帰りー!」
「ただいま、サーバルちゃん。ところで、なにを話してたの?」
「仕事が大変だなーって」
「そっか……」
「そういえば、かばんさんはどうして弁当屋に勤めているのだ?」
「えっと、派遣社員だからだよ。サーバルちゃんと遊ぶのが楽しくって……そしたら就職に乗り遅れちゃって」
「そうなのか。でも、今の方が幸せそうに見えるのだ」
「うん、今の職場では毎日新しい発見があって楽しいよ」
「かばんさんはすごいのだ」
「アライさん、ボクね、夢があるんだ。お金を貯めて、田舎にロッジを買って、そこでサーバルちゃんと楽しく暮らすんだ」
「すっごーい! 素敵な夢だね、かばんちゃん」
それが出来たらどんなに幸せだろう……。アライさんは思った。この三人の日常を守れたなら、自分の不甲斐無さが少しは報われるのではないか。
「アライさん、どうしたの?」
「アライさんも、かばんさんの夢に協力するのだ! お金を貯めるためにまずは国の制度を使って投資をはじめるのだ!」
「アライさん、先走り過ぎだよー」
そんなアライさんを見て、かばんちゃんは自分の腕時計を見た。
「大正義かどうかはともかくとして……それについてはラッキーさんが教えてくれたよ」
生活支援AIラッキービースト、その腕時計タイプだった。
「投資はリスクがどうしてもあるから……ボクがやりたいのはそういうのじゃなくて、もっと安定的な収入が得られる仕事だよ。それと、ラッキーさんがいれば家計管理も簡単なんだ」
「アライさんも、ラッキービーストが欲しいのだ!」
「じゃあアライさんもお金貯めないとね〜」
「そうなのだ!」
「ありがとう、ボクもサーバルちゃんと一緒に頑張るよ!」
「ありがとうなのだ! みんな一緒に、ロッジで暮らすのだ!」
「おおー!」
四人は拳を突き上げた。
かばんちゃんは思う。もしかしたら、派遣社員よりこの四人で起業したら楽しそうだな、と。かばんちゃんも、心のどこかでは『今日も唐揚げを黙々と入れ続け、早く終業時間が来ることだけを祈る』事をしていたのだ。
アライさん、フェネック、サーバルちゃん、そして自分自身。四人で何か楽しい事が出来ればきっと毎日が楽しくなるはずだ。かばんちゃんはそう思い始めていた。
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いられいさんにSkeb依頼した『けものフレンズ』より、かばんちゃんとサーバルちゃんのイラストでした!
ありがとうございました!